1920年に創業された歴史ある高砂香料工業株式会社様。合成香料製造からフレグランス、フレーバーへと事業を拡げながら、常に香料技術の最先端を走られています。
また、早くから海外での事業を展開されていらっしゃいます。1960年にニューヨークとパリに駐在所を開設したことを皮切りに、世界の28の国と地域に拠点を設けるグローバルな香料会社へと発展されてきました。
高砂グループとしてグローバルでさらなる発展を遂げられている中、弊社が関わったインドネシアの新工場建設プロジェクトについてお伺いしました。
工場正面図
企業情報
商号 | 高砂香料工業株式会社 (英文表記:TAKASAGO INTERNATIONAL CORPORATION) |
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本社 | 〒144-8721 東京都大田区蒲田5丁目37番1号ニッセイアロマスクエア17F 電話 03-5744-0511(代表) FAX 03-5744-0512 |
設立 | 1920(大正9)年2月9日 |
事業内容 | フレーバー、フレグランス、アロマイングリディエンツ、ファインケミカルの製造・販売(輸出入を含む) |
海外事業所 | 28の国と地域 |
研究所 | 13 |
工場 | 25 |
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- 下川 英介 様
- コーポレート本部 グローバルSAPマネジメント部
F&Aモジュールリーダー
(インタビュー時)
- プロジェクト遂行時
- MANAGER
ADMINISTRATION AND KEY PROJECTS
TAKASAGO INTERNATIONAL (SINGAPORE) PTE LTD
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- 齊藤 直樹 様
- 生産本部 生産戦略部 生産企画グループ
課長
(インタビュー時)
- プロジェクト遂行時
- PRODUCTION MANAGER
PRODUCTION DEPARTMENT
TAKASAGO INTERNATIONAL (SINGAPORE) PTE LTD
インドネシアプロジェクトの構想と位置づけ
- CM Plus
- はじめに御社におけるインドネシアプロジェクトの構想と位置付けをお聞かせください。
- 高砂香料工業下川様
- 弊社は1975年にシンガポールに進出しました。シンガポール拠点が、インドネシアも含むアセアン・リージョンの統括会社として、地域でのビジネスを統括・コントロールしていたのですが、アセアンで一番市場が大きいインドネシアでどうしても商売を取り切れないということがありました。競争も激しい市場ですが、競合他社に比べて特にリードタイムについて大きい点が課題とされていました。そこでその点を解消すべくインドネシアに進出することが決まりました。会社として既に進出はしておりましたが、製造拠点を設けようという話です。
これが最初のインドネシアでの工場進出の発端です。
その先、どういった工場を計画するかという検討では、シンガポールに地域統括のヘッドクォーターとしてふさわしい工場が既にありますので、インドネシアは、サテライト工場としての位置付けを最初は念頭に置いていました。
- CM Plus
- インドネシア工場の位置づけが良く分かりました。
“最初は”という事は、当初の構想段階の狙いと、途中で方向性が変わったというようなことはあったのでしょうか? たとえばマーケットの変化などからでしょうか。
- 高砂香料工業下川様
- マーケットの変化という観点からは構想が変わったことは特にありません。
- CM Plus
- では、おおよそ初期の構想通りの工場が実現した。
- 高砂香料工業下川様
- はい。ただ製造工程を簡単に見込んでいたというところはあると思います。
構想段階では今実際に稼働している工程より単純な工程で考えていました。しかし、計画を進める中で当初の予定よりは複雑に、シンガポール工場に近いような工程も行う事になりました。
- CM Plus
- そうすると、一旦完工した後に、装置などの改造はあったのでしょうか?
- 高砂香料工業齊藤様
- いえ、改造はなかったです。
インドネシアでもさまざまな原料からスクラッチで作らざるを得なくなったが故に、原料調達の観点からもインドネシア工場がしっかりやってもらわなければならない。つまり、サテライト工場がシンガポールのヘッドクオーターの下にある状態ではなくて、自身で自立してもらわなきゃいけないということです。この段階に進むことが当初の想定より早まりました。
当初の構想と少し変わったのは、そこですかね。作るものが変わったとか、商売が変わったということはありません。
- CM Plus
- 製造工程を担う範囲が構想当初より広がり、その為に工場の位置づけも想定より早く、重要性を増していったのですね。
工場のコンセプト
工場上画図
計画時の工場コンセプトと将来計画と実際
- 高砂香料工業下川様
- 私は今はインドネシアのプロジェクトから離れて、直接は関わっておりませんが、構想当初は、商売のボリューム自体が増えてから実施しようと思っていたことが、前倒しで進んでいると聞いています。倉庫への投資をしているようです。
- CM Plus
- なるほど、お聞きしたかった”建設コンセプトと将来計画”に絡むところですね。
生産規模だったり、作ろうとしてる製品であったりの建設コンセプト、また将来計画はどういうことを考えられていたのでしょうか?
- 高砂香料工業下川様
- 建設コンセプトという意味では、シンガポールの当時の社長の考えとしては、なるべく投資も少なく、単純な工場で小さく作って、大きく育てるというものです。将来のための拡張エリアも十分取って、低コストで高品質のものを作るというのが最初のコンセプトですね。そういう当初のコンセプトから比べると、投資額も設備規模や工場のスペースとしても上方修正をしたことになります。
- CM Plus
- 弊社がCM会社として参画していたプロジェクト竣工時に確保されていた将来スペースは既に使っているのでしょうか。
- 高砂香料工業下川様
- 先ほど申し上げましたように、倉庫で一部使ってますね。フレーバー棟の右手に結構空き地があったのですが、完工当初はなかった建物がひとつ出来ています。
- CM Plus
- 倉庫系の増築を実施されたという事ですが、それが必要となった主なマーケットはインドネシア国内を顧客とされているのでしょうか?日系の法人も、現地法人もインドネシア国内に存在すると思いますが・・・
- 高砂香料工業下川様
- はい、マーケット的にはインドネシア国内です。
デザインコンセプトと安全性、グローバルな基準に応える工場として
- CM Plus
- 工場内レイアウトなどのデザインに関して、フレーバーとフレブランスの分離という点は建設プロジェクトの初めからコンセプトとしてありましたが、その点はいかがでしょうか? 例えば、高砂香料様のお客さんからの視点で “明確に分離されていいですね” とか、外来者の工場に対するコメントなどあるでしょうか?
- 高砂香料工業下川様
- 我々がインドネシア工場の設計を開始するちょうど前ぐらいですが、高砂グループ全体でデザインコンセプトという観点で意識が高まり、本社からの海外工場への指導も明確化してきた時期でした。
フレーバーとフレグランスを明確に区分けして、間にスペースを取ってコンタミネーションを防ぐなどのデザイン方針は、それぞれの工場で実施していたのですが、高砂グループ全体として明確化し本社主導で行うという動き、それが海外にも反映されてきた。また、特に安全性に対する要求指導が非常に厳しくなっているということもあります。
- 高砂香料工業齊藤様
- 高砂香料は世界中に工場があって、現地に根差して、現地が独自に改善してプラッシュアップして様々な工場を建てています。現地の工場でその活動が進むこと自体は良かったのですが、本社とローカルの目線に若干のずれが出始めてきた時期でもありました。グローバルのプラント設計のコンセプトを持とうと明確に打ち出したのが、我々がインドネシアの建設プロジェクトが始まった頃です。そのような経緯で、高砂グループとしてのグローバルコンセプトを持った1つ目の工場という位置づけです。
- CM Plus
- なるほど。デザインコンセプトや安全性の要求が厳しい、グローバルコンセプトに沿った一つ目の工場ということですね。
シーエムプラスのサービスを利用して
シーエムプラスのサービスを選んだ理由
- CM Plus
- 弊社を選定した理由に関してお聞かせいただき、ご意見いただければと思います。
- 高砂香料工業下川様
- シンガポール工場は、日系建設会社の現地法人で躯体を建設し、生産機械の方はローカルの会社に依頼しました。その上にプロジェクトマネジメントの会社を置くという体制でした。
インド工場はほぼ全てローカルの会社に依頼しました。建設会社はシンガポール系でしたがインドの現地法人でした。
インドネシア工場は定評のある日系のゼネコンさんにお願いした方が良いのではないか、という社内の話になり、基本計画・基本設計と合わせて競争入札を支援してくれるCM会社を探している中、シーエムプラスさんを知ってお願いした次第です。
- CM Plus
- 弊社をどのように知ったのでしょうか。
- 高砂香料工業下川様
- シンガポール工場でお世話になった設備会社さんの方からご紹介いただいて知りました。このように繋がったのは本当にご縁というしかありません。
- CM Plus
- 弊社は創業からエンジニアリング設計支援とCMサービスを行っていますが、まだまだ認知度は低く、我々も努力していかなければならないところと肝に銘じております。そんな中、以前プロジェクトで関わった方々からのご紹介で仕事をいただく事は多く、大変栄誉なことだと考えております。
シーエムプラスのサービスを利用して良かったところ、改善点
- CM Plus
- では、弊社を採用されてよかった点、実際に業務を行ってここは改善してほしいという点など、ざっくばらんにお話しいただければと思います。
- 高砂香料工業下川様
- 私は工程の管理とコストの管理を担当してたのですが、御社にお願いしたことで非常に安心感がありました。CM会社雇用の支出はありましたが、それに見合う効果はあったと思います。
基本計画時に工事コストを試算していただいたのですが、大きなブレがなかった。
また工程に関しては、ズレは一部ありましたが…それは後ほど述べる理由によるもので、 シーエムプラスに依頼した範囲から何か工程が大きくずれたということはなく、安心感がありました。
- CM Plus
- 工程管理とコスト管理に関して、評価いただきありがとうございます。
基本設計・引合いの過程では、弊社はコンセプトデザインを作り、基本設計図書・引合い用図書を用意して、引合い支援を行いました。日系ゼネコンだけの競争ではあったのですが、競争環境をしっかり作れたと我々は考えておりますが、そこに関する評価はいかがでしょうか。
- 高砂香料工業齊藤様
- そこは我々が一番感謝してしているところです。
今回のプロジェクトで私たちは専属で建設プロジェクトを担当するという人はいませんでした。生産設備に関しては、自分の通常の仕事を抱えながら設備業者さんとやりとりをしなければなりません。建築工事の引合の文書を作る時間はないですし、我々がプロのスキルを持ってエンジニアリングを行うことはできませんので、その点に関しては本当に助かりました。
- 高砂香料工業下川様
- 確かに引合い図書を作成するのは我々には難しいですね。
基本計画時に工事コストを試算していただいたのですが、大きなブレがなかった。
初めの起点となる図書がきちんとしてしていたので、コスト管理も上手くいった。初めの見積りと大きなズレがなく着地できたのだと思います。
- CM Plus
- ありがとうございます。インドネシア工場で高砂香料様が求めるものと、弊社のサービスが合致したのだと思います。お役に立てて光栄です。
工事段階の話になりますが、現場の品質管理としては、弊社の現地スタッフが週1回現場に赴き、更に日本から月に1回現場確認に行くという体制でサービスを行わせていただきました。弊社の経験から日系ゼネコンに任せているので、この頻度の訪問が適切だろうという判断でした。
- 高砂香料工業下川様
- シーエムプラスの方から建設会社さんに、”こういう資料を月1できちんと揃えて出してください”という依頼を出されていて、そういう点は私たちでは分からないところです。非常に助けていただきました。
- CM Plus
- お客様によっては、”費用を抑えたい、日系ゼネコンに工事は任せるから、実施設計以降は弊社のサービスは要らない”というご意見のお客さんもいらっしゃると思うのですが、実施設計・工事段階でも弊社をご評価いただいて安心いたしました。
- 高砂香料工業下川様
- 建設のプロの視点から我々のコミュニケーションの足りていないところを補佐していただきました。
初期の基本計画からずっとお付き合いいただいたという中で、我々のやりたいことを分かっているということも大きかったです。
- 高砂香料工業齊藤様
- 後は、やはりインドネシアの国柄を熟知されていたということが大きいと思います。建設に関わる法規関連などは我々では分からない。噂レベルで聞いてる事など様々にあるのですが、実際のところが明確でなく、その事前調査も非常に助かりました。
- CM Plus
- 現地に根差した情報という意味では、弊社はインドネシア法人を持っていてスタッフが現地情報を理解しておりますので、お役に立てることができたのかと思います。
生産機器に関して
話は工場の要となる生産機器へと続きました。
ローカルの生産機器ベンダーの採用
- CM Plus
- ところで、生産機器をローカル企業に発注されましたが、インドネシア国内で生産機器を調達した比率は金額ベースで何割ぐらいになるのでしょうか。
- 高砂香料工業下川様
- 2割は超えているけれど、5割には満たない感じでしょうか。
1つ2つ、値が張る生産機器があり、それが入ると割合が大きくなります。今回はそれらはインドネシア以外の海外に依頼しました。シンプルなものはインドネシアに頼み、代わりに、少し精度が求められるようなものはシンガポールであったりヨーロッパであったり、各地に頼んでいます。
- CM Plus
- なるほど。適材適所で発注する企業を選定されているのですね。
ローカルの生産機器ベンダーとのコミュニケーション
- CM Plus
- ご苦労された点だと思いますが、ローカル企業とのやりとり、品質や工程の調整などいかがだったでしょうか?
- 高砂香料工業齊藤様
- 本当にこのプロジェクトで苦労したのは、生産機器に関するところと思います。構想当初、インドネシア工場はシンプルな工程で、かつ、シンガポール工場で行っていることとほとんど変わらないという想定でした。それならば、生産機器については我々の知見もあるし、ローカルの調達で大丈夫であろうと、最初から決めていました。
ただ、いざ業者を選ぶとなると苦労しました。3,4社を当たりましたが、情報が十分になかったので、どこが良い業者か判断に苦慮しました。結局、タンクは工場からは結構距離のあるスラバヤの業者に発注しました。終わってみて、タンクの“物自体のクオリティ”ではなくて…“仕事自身のクオリティ”と言うのでしょうか、その面で苦労しました。
- CM Plus
- 彼らの製品のクオリティではなくて、業務の進め方についてですね。
- 高砂香料工業下川様
- やりとりでのレスポンスが遅く、直接打合せようとしても遠く出来ない。そのペースでのコミュニケーションが彼らのスタンダードなのかもしれない。
その辺が我々もよく分からないまま進めて、結果的にそれがプロジェクト全体の工程にインパクト与えてしまった。この点は我々も1つ学びにしなきゃいけないところと考えています。
- CM Plus
- しかし、コストの面では安く納まったのではないでしょうか?
- 高砂香料工業下川様
- はい、コスト面では安く納まりました。日系のエンジニアリングの会社様から参画したいというオファーはいただいたのですが、ローカル企業とコスト面では競争にならなかったです。
- CM Plus
- そういう意味では、工程とコストがトレードオフとなったとも言えますね。工程の調整は難しかったけれども、コストは押さえて、全体として上手く完工したと言ってよいでしょうか?
- 高砂香料工業下川様
- 生産機器が遅れたことで建設工事も工程が延びたのですが、建設工事会社さんの協力もあり大きな追加コストが発生することはなく完工することが出来ました。
工場稼働後のサービスについて
プロジェクト完工、工場稼働後について
- CM Plus
- 弊社は、プロジェクト終了後、継続的にお客様へのコンタクト・フォローができていないという認識を持っております。その辺りですが、弊社がどのような関係を高砂香料様と継続的に構築していくべきか、アドバイスがあればお願いします。
- 高砂香料工業齊藤様
- 我々は工場を日々建てているわけではないので、同様の業務を継続して依頼することはなかなか難しいですが、御社のシンガポール拠点からは定期的にコンタクトをいただいて、何かあれば相談できるという関係があり、安心感はありました。
- CM Plus
- ありがとうございます。
弊社は近年の世の中の動きもあり、エネルギーソリューションのサービスを始めております。運営されている工場でどのように省エネルギー・CO2削減が行えるかを調査し、情報をご提示するというサービスです。製造現場の方々は生産という観点を中心に運営されているので、弊社がエネルギー商品に対して継続的に調査・アドバイスを行う事で、工場のエネルギー消費量を下げられる可能性を見出し、お客様にメリットを寄与できるのではと考えております。特に海外ではそういった観点での検討や施策が必要とされてくるのではと考えています。
- 高砂香料工業齊藤様
- サービスの紹介ありがとうございます。普段私たちがあまり取り組めていない観点かと思います。
高砂本社にて
中央左から 高砂香料工業様 齊藤様、下川様
左端: 弊社 塚田、右端:弊社 冨樫
PT. Takasago International Indonesia メンバー
今回、直接お話をお伺いできませんでしたが、PT. Takasago International IndonesiaのIswanto Juandy Tjeng 社長様には大変お世話になりました。
PT. Takasago International Indonesia 工場にて
左から Iswanto Juandy Tjeng 社長、 弊社 Lanny
PT. Takasago International Indonesia
注:インタビュー記事内に掲載の情報はインタビュー当時のものとなります。